2010年08月12日
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面白ショートショート『ミュータントμたんと一緒』

Written By: 遠野秋彦連絡先

 ミュータントとは、突然変異種である。放射能などを浴び、異なる形質を得てしまった者を言う。しかし、通常の人間とは異なるため、迫害の対象となることも多く、しかも生存に有利な形質が得られることは希だった。

 しかし、ミュータント研究の大家であるM博士は、ついに人間以上の超絶的な能力を持つミュータントに出会った。

 悲惨な戦争で荒廃した惑星で見出されたその者こそ、M博士が12番目に発見したコードネームμだった。幼い少女でしかないμであったが、超能力を使いこなし、手を使わずに物を動かし、瞬間移動し、人の心を読むことができた。しかし、正体を隠すのが上手いμはすぐに周囲に溶け込み、μたんと呼ばれて親しまれた。

 しかし、μたんは孤独だった。他人の心を読んで、相手に合わせて演技しなければ生きていけない存在だったのだ。

 唯一、μたんが心を許せるのがM博士だった。M博士は、μたんを研究対象を越えて溺愛し、実の娘のように扱った。

 いつしか美しい娘に成長したμたんは、M博士と結婚するまでに至った。

 「これでいつまでもμたんと一緒だよ」

 「もう、そんな子供みたいな名前で呼ばないで」

 「いいや。いつまでもわしには、可愛いμたんなんだよ」

 「もう。あなたったら」

 全ては順調だった。

 μたんはすぐに息子も身ごもった。

 2人は幸せの絶頂だった。

 生まれた子供は、母親の超能力と父親の知性を受け継いだ優秀児だった。

 彼は成長すると言った。

 「実は僕、1つだけ母さんに質問があるんだ」

 「まあ。何かしら?」

 「僕は誰の子供なの?」

 「あなたは私とM博士の子供よ」

 「嘘だ」

 「どうしてそう思うの?」

 「当時の夫婦生活のサイクルと母さんの月経サイクルを調べたんだ。でも、数字が合わないんだよ」

 「あらまあ」

 「僕が受精したとされる推定日、どう考えてもパパは調査旅行中でうちにいなかったんだよ」

 「よく調べたわね」

 「しかも、ママは心にシールドを下ろしてそこだけ僕に心を読ませないんだ」

 μたんはため息をついた。

 「しょうがないわね。これから話すことは絶対に秘密にできる?」

 「うん」

 息子は自らの出生の秘密にゴクリと唾を飲み込んだ。

 「あのとき。M博士は女人禁制の僧院に寝泊まりして調査をしていたのよ。でも、我慢ができなくなって、テレポートしてM博士のベッドに行っちゃったの。ばれたら宗教上の戒律を破ったことになって厳罰だからね。絶対に内緒よ。私はあくまで家でずっと待っていた貞淑な妻だからね」

(遠野秋彦・作 ©2010 TOHNO, Akihiko)

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